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釧路地方裁判所帯広支部 平成4年(ワ)210号 判決

原告

株式会社オリエントコーポレーション

右代表者代表取締役

阿部喜夫

右訴訟代理人弁護士

稲澤優

被告

梅田優

梅田清

右被告ら訴訟代理人弁護士

今重一

今瞭美

主文

一  被告らは、原告に対し、被告梅田優が訴外株式会社オフィスリベルテコーポレィションから別紙物件目録記載の自動車の引渡しを受けるのと引換えに、連帯して金一六七万六一〇四円を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金一六七万六一〇四円及びこれに対する平成四年九月二八日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告梅田優(以下、「被告優」という。)は、平成三年一一月二九日、訴外株式会社札幌銀行(以下、「訴外銀行」という。)から次の約定で金一七五万円を借り受けた(以下、「本件消費貸借」という。)。

(一) 利息は年11.2パーセントの割合とする(年三六五日の日割計算)。

(二) 被告優は、訴外銀行に対し、元金及び利息を次のとおり分割して支払う。

平成三年一二月から平成八年一一月まで毎月二七日限り金二万四〇二六円ずつ支払う(但し、初回は金二万三五四八円、最終回は金二万四〇三〇円とする。毎年一月と七月は金八万三五八四円を加算する。)。

(三) 被告優が右の割賦金の支払を一回でも怠ったときは期限の利益を失う。

(四) 遅延損害金は年一四パーセントの割合とする。

2  被告優は、平成三年一一月二九日、原告との間で、次の要旨の保証委託契約を締結し(以下、「本件保証委託」という。)、原告は、同日、訴外銀行に対し、被告優の本件消費貸借に基づく債務を連帯保証する旨を約した。

(一) 被告優は、原告に対し、本件消費貸借に基づく債務を連帯保証することを委託する。

(二) 被告優が訴外銀行に対する割賦金の支払を怠ったときは、原告は被告優に対して何らの通知催告をすることなく保証債務の全部または一部を履行できる。

(三) 原告が保証債務を履行したときは、被告優は原告に対し直ちに代位弁済金全額を支払う。

(四) 右の求償債務の遅延損害金は代位弁済の日から年29.2パーセントの割合とする。

3  被告梅田清(以下、「被告清」という。)は、平成三年一一月二九日、原告に対し、右の被告優の求償債務を連帯保証する旨を約した。

4  被告優は、平成四年六月二七日に訴外銀行に対する割賦金の支払を怠ったので、同日の経過により期限の利益を失った。

5  そこで、原告は、訴外銀行から保証債務の履行の請求を受け、平成四年九月二八日、訴外銀行に対し、金一六七万六一〇四円を代位弁済した(代位弁済金内訳 残元金一五九万四〇三九円、利息七万九七八六円、遅延損害金二二七九円)。

よって、原告は、被告らに対し、代位弁済金一六七万六一〇四円及びこれに対する代位弁済の日である平成四年九月二八日から支払済みまで年29.2パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1のうち、被告優が、平成三年一一月二九日、訴外銀行に対し、本件消費貸借の申込みをしたことは認めるが、金一七五万円を受領したとの事実は否認する。

2  同2ないし4の事実は否認し、同5の事実は知らない。

三  抗弁(同時履行の抗弁)

被告優は、訴外株式会社オフィスリベルテコーポレィション(以下、「訴外リベルテ」という。)から別紙物件目録記載の自動車(以下、「本件自動車」という。)を購入するにあたり売買代金の支払のために訴外銀行との間で本件消費貸借を結び、借入金は訴外銀行から訴外リベルテに直接支払われたものである。したがって、被告らは、被告優が訴外リベルテから本件自動車の引渡しを受けるまで原告に対する支払を拒絶する。

四  抗弁に対する認否

訴外銀行及び原告は、被告優と訴外リベルテとの間の売買契約における割賦購入あっせん業者には該当しないから、被告らは、原告に対し、訴外リベルテに対する同時履行の抗弁をもって対抗することはできない。

理由

一証拠(甲一ないし七、一〇ないし一六、乙一、証人中道俊成、被告優)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被告優は、平成三年一一月五日ころ、訴外リベルテから、訴外銀行のマイカーローンを利用して本件自動車を購入することとし、訴外リベルテからマイカーローンの申込書等(甲一〇ないし一二はその一部)を受け取って、自ら「お申込人」欄に署名押印し、被告清は「連帯保証人」欄に署名押印した。

右のマイカーローン申込書等は、訴外銀行に対する金銭消費貸借契約申込書兼原告に対する保証委託契約申込書兼同契約書とされた書面が、銀行用、保証会社用、お客様控え用として計三枚綴られ、その外に訴外銀行との金銭消費貸借契約書とされた書面が、銀行用、お客様控え用として計二枚綴られ、合計五枚が一綴りにされた書類であった。

2  訴外リベルテは、訴外銀行に対し、右のマイカーローン申込書等及び自動車注文書(甲一五)を持ち込んで、マイカーローンの手続を依頼した。

3  訴外銀行のマイカーローンの担当者であった訴外中道俊成(以下、「中道」という。)は、平成三年一一月一九日ころ、被告優の勤務先を訪ね、被告優から会社の在籍証明書(甲五)等を受け取るとともに、本件消費貸借の契約締結の意思を確認した。

4  中道は、平成三年一一月二五日、訴外銀行帯広支店の外の車庫において被告優と会い、被告優に在籍証明書に勤務先の社長名を記入させ、本件消費貸借における貸金の返済方法の確認などをした。

5  訴外銀行は、原告から本件消費貸借に対する保証を得た上、平成三年一一月二九日、訴外リベルテに対し、依頼人を被告優として振込依頼書(甲一六)を作成し、本件消費貸借による借入金一七五万円を訴外リベルテの訴外銀行帯広支店普通預金口座に振り込む方法により支払った。

6  訴外銀行は、被告優に対し、訴外銀行に対する金銭消費貸借契約申込書兼原告に対する保証委託契約申込書兼同契約書のお客様控え、訴外銀行との金銭消費貸借契約書のお客様控え、振込依頼書(甲一六)のお客様控え及びローンご返済予定表(甲一三は同じものの訴外銀行の控え)を送付した。

右の訴外銀行に対する金銭消費貸借契約申込書兼原告に対する保証委託契約申込書兼同契約書のお客様控え及び訴外銀行との金銭消費貸借契約書のお客様控えには、本件消費貸借の契約内容及び本件保証委託の契約内容が記載されていた。

7  訴外銀行と原告とは、マイカーローンに係る貸金債務の保証について包括的な契約を結んでおり、被告優が原告に対して支払うべき保証委託料は、本件消費貸借の利息債務の利率に上乗せされて訴外銀行を通じて原告に支払われることとされていた。

8  被告優は、訴外銀行に対し、平成四年五月二七日まで自己の訴外銀行帯広支店普通預金口座から自動的に引き落とす方法等により本件消費貸借による借入金の返済を行ってきたが、同年六月二七日分の割賦金から支払をしていない。

9  そこで、訴外銀行は、原告に対し、保証債務の履行を請求し、原告は、平成四年九月二八日、訴外銀行に対し、金一六七万六一〇四円を代位弁済した(代位弁済金内訳 残元金一五九万四〇三九円、利息七万九七八六円、遅延損害金二二七九円)。

二右に認定した事実から、請求原因1ないし5の事実はいずれもこれを認めることができる。

被告らは、本件消費貸借による借入金一七五万円を受領していないと主張している。しかし、前記一5のとおり、訴外銀行は、平成三年一一月二九日、訴外リベルテに対し、振込依頼人を被告優として借入金一七五万円を訴外リベルテの訴外銀行帯広支店普通預金口座に振り込む方法により支払っている。本件消費貸借による借入金は、訴外リベルテに対する自動車の売買代金支払のために借り入れたものであること、また、右の方法により借入金が支払われたことは、前記一6のとおり、訴外銀行が、被告優に対し、訴外銀行との金銭消費貸借契約書のお客様控え及び振込依頼書のお客様控えを送付しているのであるから、少なくとも被告優の追認があると認められることに鑑みると、借入金は現実には被告優を経由していないが、被告優が受領したのと同一に解して良いと考える。

三そこで、抗弁について検討する。

1  前記一に認定した事実及び証拠(甲一〇ないし一三、一五、一六、証人中道俊成)によれば、本件消費貸借は、「マイカーローン」と称され、借入金の使途は自動車販売業者である訴外リベルテに対する本件自動車の売買代金の支払に限定され、使途を限定するために借入金は訴外銀行から訴外リベルテの銀行口座に直接振り込まれていること、借入金の返済は、五年間にわたり六〇回に分割して行うものであることが認められる。したがって、右の取引形態は、訴外銀行を割賦購入あっせん業者とする割賦販売法第二条第三項第二号の割賦購入あっせんに該当すると認められる。

そうすると、訴外銀行が被告優に対して借入金返済の請求をしてきた場合には、被告優は訴外銀行に対し、割賦販売法三〇条の四第一項に基づいて販売業者である訴外リベルテに対する同時履行の抗弁をもって対抗し、被告優が訴外リベルテから本件自動車の引渡しを受けるまで訴外銀行に対する支払を拒絶することができることとなる。なお、付言すれば、前記一に認定した事実及び証拠(甲一〇ないし一三、一五、一六、証人中道俊成)によれば、訴外銀行は、貸金の振込前に訴外リベルテに対して本件自動車引渡しの資料を提出させるなどして商品引渡しの確認をすることができたと認められるので、右の結論は訴外銀行に過当な不利益を課するものではない。

2 これに対し、前記一に認定した事実及び証拠(甲一〇ないし一三、一五、一六、証人中道俊成)によれば、原告は、被告優との本件保証委託に基づいて、訴外銀行に対し、被告優の本件消費貸借による借入金返還債務を連帯保証するものであって、本件消費貸借による借入金の交付にも、被告優の訴外銀行に対する借入金の返済にも直接関与することがないと認められる。したがって、原告が割賦販売法上の割賦購入あっせんを行う業者に該当すると解することはできない。

そうすると、原告が訴外銀行に対する保証債務を履行して求償権を行使する場合に、原告は割賦購入あっせん業者に該当しないとして、割賦販売法三〇条の四第一項の適用を排除し、被告らは原告に対し、訴外リベルテに対する同時履行の抗弁をもって対抗することができないこととなるとも解される。

しかしながら、前記一7のとおり訴外銀行と原告とは密接な関係にあるのであって、原告は、形式的には、連帯保証人として被告優とともに訴外銀行に対する共同債務者の地位にあるけれども、実質的には、被告優が訴外銀行に対する借入金の返済をしなくなったときは、代位弁済をした上、訴外銀行に代わる債権者として被告優に対することとなり、しかも、証拠(甲一〇ないし一二、証人中道俊成)から認められるように、このような関係は、当初から訴外銀行との間で予定されていたものであることに鑑みると、右のように、請求者が訴外銀行であるか原告であるかによって結論を異にすることは不当であるといわなければならない。むしろ、原告は、割賦購入あっせん業者の立場にある訴外銀行が借入金の返済を請求する場合に準じて考えられるべきである。このように解しても、右のような訴外銀行と原告との密接な関係に鑑みると、原告は、訴外銀行を通じて訴外リベルテに対して商品引渡しの確認をすることができたと認められるから、原告にとって過当な不利益を課するもめとはいえない。

以上から、被告らは、訴外銀行に対して対抗できるのと同様に、原告に対しても、訴外リベルテに対する同時履行の抗弁をもって対抗することができるものと解すべきである(割賦販売法三〇条の四第一項の類推適用)。

3 右から、被告らは、原告に対し、販売業者である訴外リベルテに対する同時履行の抗弁をもって対抗し、被告優が訴外リベルテから本件自動車の引渡しを受けるまで原告に対する支払を拒絶することができることとなる。

したがって被告らの抗弁は理由がある。

四被告らの抗弁は同時履行の抗弁であるから、原告の請求は、被告優が訴外リベルテから本件自動車の引渡しを受けるのと引換えに代位弁済金の支払を求める限度で理由がある。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官手塚明)

別紙物件目録

車名 トヨタ ソアラ ツインターボ

塗色 白

台数 一台

年式 六一年八月

型式 F―GZ二〇

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